日本の食卓には、人生の節目に寄り添う料理がある。産後の産飯にはじまり、お食い初め、七五三、成人式、結婚式…。家族や親族、地域の人々と食事をともにすることで想いを交わし、絆を深める。料理は、胃袋を満たすだけでなく、人と人をつなぐ力を持っている。
「日本料理 おく村」は150年にわたって人々を食でつないできた名店だ。明治時代に魚屋町で魚の仲買のかたわら食堂を営み、昭和に入って熊本城の堀割(水路)の一部だった古城堀端の一角に移転して料亭に。店内には美術館レベルの調度品が並び、熊本はもちろん全国から著名人が訪れて、日が暮れると琴や三味線の音色が鳴り響いていたという。
現在の総料理長を務める奥村賢さんは創業者の子孫。食堂から数えると6代目、料亭としては3代目で、老舗の大看板を背負っている。奥村さんは由緒ある料亭として和食のマナーや日本文化を伝える使命を感じる一方、気軽に利用できる料理店でもありたいと考えている。そのため、ランチは2,000円台からとリーズナブルな価格で提供(数量限定)。中でも「和牛レアステーキ膳」は肉の旨みと脂の甘みを活かすため塩のみで焼き上げる、料理人の潔さを感じる一品。自家製の土佐酢にさっとくぐらせて含むと、そのひと目、そのひと口で丁寧な仕事ぶりを感じるはず。
店内には座敷や洋間、茶室や100名収容の大広間を備えており、食事会や茶会、大人数での忘新年会にも利用可能。もちろん、結納や結婚式、節句の祝いといった古式ゆかしいシーンにも対応している。熊本の土地と文化に精通し、しきたりを熟知したスタッフがしっかりとサポートしてくれるので、安心して任せることができる。
人生の節目節目を必ずここで過ごす常連客も多く、まさに人々の歩みとともに時を重ねてきた料理店だ。「ザ サンズ熊本城公園」から「日本料理 おく村」までは徒歩2分。美しい食の余韻とまちの歴史を噛み締めながら家路までの道のりを楽しめるのは、新町で暮らす人に与えられた特権といえる。
日本料理 おく村
所在地/熊本市中央区新町1-1-8
徒歩2分(約150m)
さかのぼること400年。肥後象嵌の歴史は初代肥後藩主・細川忠利の時代に始まったと伝わる。細川忠利は文武に通じた風流人。武具の装飾にもこだわり、鉄砲鍛冶として召し抱えた林又七に命じて鉄砲や刀の鍔(つば)に象嵌を施させていたことが肥後象嵌のルーツといわれている。
象嵌とは、木や粘土などの素材に異質の素材を嵌(は)め込む技法を指す言葉。シリアのダマスカス地域で生まれ、飛鳥時代にシルクロードをたどって日本に伝わったとされている。肥後象嵌は、細かな刻みを入れた鉄地に純金や純銀を打ち込む布目象嵌が特徴。金銀を打ち込んだ後、特殊な液を塗って錆を出し、茶で煮出して錆を黒く変色させて…と、いくつもの工程を重ねて漆黒の地金に金銀の文様を描く。精巧な技術が必要なため、一人前となるには10年ほどを要するという。 肥後象嵌の職人は1876年の廃刀令や1970年以降の工芸品ブーム衰退を機に廃業が相次ぎ、現在は10数名を残すのみ。「肥後象嵌 光助」は1874年に大住伊吉さんが新町で創業し、4代目の大住裕司さんが技術と伝統を今に受け継いでいる。
「肥後象嵌 光助」の工房は築100年を超える町屋だ。併設のギャラリーには刀鍔やネクタイピン、ネックレスなどがそろう。くまモンをモチーフにしたピンバッジやゴルフマーカーといったユニークなアイテムもあり、旅行客が旅の記念に買い求めることも多いそう。
肥後象嵌は適切に扱えば100年以上は持つため、記念品や贈答品にも向く。2016年のG7伊勢志摩サミットでは「肥後象嵌 光助」の万年筆が各国首脳への贈り物に選ばれた。似顔絵や家紋を入れるオーダーメード品も好評だ。 工房では前日までの予約で肥後象嵌のアクセサリー作りを体験できる。小学校中学年から参加可能で、所要時間は1時間ほど。肥後象嵌は武士の粋を今に伝える工芸品。古い町屋で熊本の歴史に想いを馳せながら、伝統の技に触れることができる貴重な機会だ。
肥後象嵌 光助
所在地/熊本市中央区新町3-2-1
徒歩3分(約240m)
新町電停そばにある「長崎次郎書店」は、新町のランドマークの一つだ。1924年に建てられた建造物で、丸の内赤煉瓦オフィス街で有名な建築家・保岡勝也氏が設計。国の登録有形文化財にも指定されている。1階の書店は2024年6月で休業となったが、2階の喫茶店「長崎次郎喫茶室」は営業中。地元客はもちろん、城下町散策を楽しむ観光客も多く訪れ、賑わいを見せている。
1階入口の階段を上り店内へ入ると、レトロモダンな空間が広がる。歴史を感じる梁や窓の設え、静かで穏やかな時間の流れに、まるで大正時代へタイムスリップしたような気分に。店内を彩る美術品や、ハンドドリップで丁寧に淹れるコーヒーの香りも、特別な時間を期待させる一因になっている。
空いていれば、ぜひ窓際の席に座ってほしい。熊本市電が行き交う風景を眺めながら、穏やかな時間を過ごせるベストシートだ。軽食や喫茶メニューを味わいながら、眺めを楽しむも良し、読書するも良し、お喋りに花を咲かせるも良し。思い思いの時間を過ごせるカジュアルな雰囲気も、長崎次郎喫茶室の大きな魅力といえる。
空間、風景とともに、ここでの時間を彩ってくれるのが店主こだわりのメニューの数々だ。中でもおすすめは、スペシャルティーコーヒー豆を使った「水出しアイス珈琲」。抽出にとても時間がかかるため一日15杯しか提供できないという限定メニューで、穏やかな苦み、すっきりとした旨みがたまらない。昔ながらの固めの食感にファンが多い看板スイーツ「クラシックプリン」との相性も抜群だ。ビーフカレーやナポリタンといった軽食もそろうので、食事目当ての人もご安心を。
また、店内では4種のオリジナルブレンドコーヒーのドリップバッグも販売しており、自宅で店主自慢のコーヒーを飲めるのも嬉しいポイント。レトロなパッケージがステキなドリップバッグは、熊本土産に購入していく人も多いそう。趣のある空間とおいしいコーヒーが待つ名喫茶店が近所にあるなんて、新町での暮らしは、なんとも贅沢。
長崎次郎喫茶室
所在地/熊本市中央区新町4-1-19
徒歩7分(約540m)
フランス料理といえば世界三大料理の一つで高級料理の代名詞でもある。整えられたテーブルに、磨き上げられたカトラリーとグラス、端正で繊細な料理の数々。少々肩が凝る印象を持つ人も少なくないだろう。しかし、現地の家庭や食堂で食べるフランス料理はもっと気軽なものだ。友人や親戚とテーブルを囲み、ワインと食事とお喋りに興じる。「brasserie yanaga(ブラッスリーヤナガ)」はカジュアルな雰囲気の中でクラシックなフレンチを楽しめる、いいとこ取りの店である。
店は「新町」電停から歩いてすぐ。電車通りから一本奥に入った路地にある。クリーム色の外壁に緑色のオーニング、豊かに繁ったツタが目印。店内にはカウンターとテーブル席があり、テラス席はペットの同伴も可能だ。
オーナーシェフの彌永(やなが)豊宏さんは地元である球磨郡あさぎり町で10年間居酒屋を営み、その後熊本市内のオークス通りで球磨焼酎をメインにした居酒屋を開いた。夜遅くまで賑わう繁盛店だったがコロナ禍を機に再出発を決意。街並みが気に入った新町で現在の物件と出合い、ブラッスリー(フランス語で居酒屋の意)を始めることにした。
フランス料理はほぼ独学だが、見た目も味わいも本格派。伝統と基本に忠実に、口当たりのやわらかな味に仕上げている。平日の昼間はコース料理を、平日の夜と土・日曜はアラカルトメニューを提供する。手軽なランチコースも魅力的ではあるが、お勧めは断然アラカルト。食材の旬に合わせてメニューが移り変わり、そのどれもが彌永さんによる手作りの料理だ。国内外からセレクトしたワインが約50種そろうので、ぜひワインと一緒に味わってほしい。
夏は鮎、秋は木の実、冬はジビエ。季節のおいしいものを、手間を惜しまずよりおいしく。一品一品を丁寧に仕上げていく彌永さんの横顔は、友人や親戚をもてなす喜びにあふれているかのよう。ナイフやフォークを使い慣れない方のために箸の用意があることからも、彌永さんの温かな心遣いが伝わってくる。
brasserie yanaga(ブラッスリーヤナガ)
所在地/熊本市中央区新町4-1-19
徒歩8分(約600m)
「La Vie En Rose(バラ色の人生)」。フランスのシャンソン歌手であるエディット・ピアフが愛しい人との関係を甘く歌った有名曲である。私のためにあなたがいて、あなたのために私がいる。蜜月の仲はフランス料理とワインに通じるものがある。深く結びつく二者の関係性は享楽的で刹那的。そんな料理とワインの世界にどっぷりと浸りたいなら「clasique(クラシク)」を訪ねてほしい。
「clasique」は新町電停そばにあるビストロ。手間もコストもかけた料理と、自然派ワインを堪能できる。店主の左座康人さんは東京でフレンチの勉強を重ね、地元・熊本にUターン。街並みが気に入ったとのシンプルな理由で新町の物件を探し、現在の店舗である築100年の古民家と巡り合った。
黒光りのする天井と太い梁の作り出す店内の景色はどこかノスタルジック。昼下がりの開店時には、待っていたかのようにうまいもの好きの人々が扉を開け、14席を次々と埋めていく。日が暮れると路面電車のヘッドライトが時折窓から差し込み、日中とはまた異なる雰囲気に。窓に面したカウンター席はひたすらに目の前の料理とワインに没頭できる特等席。一人で、恋人と、家族と。さまざまなシーンで利用できるのもカジュアルなビストロの良さである。
黒板に書かれるアラカルトメニューは日替わりで、食材の旬と左座さんの気分で決まる。唯一ラインナップが変わらないのがシャルキュトリ。自家製の豚のリエットやテリーヌ、白ハムなどは人数に合わせて盛り合わせも可能で、グラスを傾けるスピードがぐんぐん加速すること間違いなしの一皿だ。
夏熊本県菊池のブランド牛・えこめ牛のステーキフリットも人気メニューの一つ。目を瞑って噛み締めたいほど絶妙な火入れで供される赤身肉をワインで流し込む。渾然一体となった旨みのかたまりが腹の底に落ちて響き、胸が高鳴るひと時。まるでピアフが歌った恋の始まりのよう。再びドアを開けて店を出る瞬間、人生はバラ色だと心の中で叫びたくなるほどの名店だ。
clasique(クラシク)
所在地/熊本市中央区新町2-6-10
徒歩7分(約560m)
酒を味わい、酒を楽しむ。その日の一本を取り出し、グラスを選び、肴を用意する。ひと口ごくり。ふうっと深呼吸をすれば酒の香りが全身をめぐり、力が抜け、心が安らぐ。朝、昼下がり、夕暮れ時。何時に開栓しようと自由なのが家飲みの良さ。世界で一番安らげるわが家での酒の時間をより充実させるための名アシストをしてくれる専門店が、新町にはある。
その専門店の名は「木村屋酒店」。昭和5年ごろに木村喜太郎さんが始めた酒蔵が前身で、現在は日本酒や焼酎、ワイン、ビールを取り扱う酒販店として営業している。店に立つのは店主の木村徹さんと妻の直子さん。一般的な酒販店と大きく異なり、売れ筋ではなく、自分たちが本当においしいと胸を張って言えるものだけを店頭に並べる。
日本酒と焼酎は個性豊かな蔵元から直接仕入れたものを、ワインは信頼できる商社と取り引きしたものを、ビールは人の手のぬくもりを感じるものを。時には蔵元やワイナリーまで飛んで、造り手と対話し、畑や醸造現場を見て、知見を深める。そして飲み手であるお客に、一本の酒の背景にある造り手の想いや産地の風までもを伝えることを、とても大切にしている。
店内には壁一面にふたりが選んだ約500アイテムがずらり。その光景は圧巻の一言だ。品質を保つため室温は夏場でも20度に保たれており、日本酒の生酒は冷蔵ショーケースで管理。ワインを保管する冷蔵庫は紫外線を出さない特殊蛍光灯を使用し、店内の照明も紫外線を出さないLEDで可能な限り照度を落とすなど、品質管理も徹底している。
デイリーに楽しめるものから、ここぞという時に飲みたいスペシャルなものまで、シーンや希望価格を伝えて木村さんご夫婦にセレクトを委ねることも可能。例えば、結婚やわが子の誕生など家族の記念となるヴィンテージでワインを探してもらえば、祝いの席も格別なものになる。酒をよりおいしく味わうためのおつまみや調味料もそろうので、その日の気分で酒と肴を選ぶのも乙というものである。
木村屋酒店
所在地/熊本市中央区新町2-12-31
徒歩8分(約640m)
実力派のグルメスポットが点在する新町界わい。その中で、華やかな洋菓子で多くのファンをトリコにしているのが「パティスリークオーレ 新町店」だ。ステンドグラスが目を引くアンティーク調の扉を開け中に入ると、種類豊富な生菓子と焼き菓子がお出迎え。温もり感じる空間や優美なシャンデリアも、より心をときめかせるエッセンスとなっている。
ショーケースに整然と並ぶのは、素材重視の生菓子20種類以上だ。「できるだけ旬のフルーツを使った生菓子をたくさんご用意するようにしています」とオーナーの服部雅一さん。フルーツは味を確かめて納得した生産者から直接仕入れているものも多く、おいしい時季だけ仕入れるため期間・数量限定メニューも多いそう。逆に言えば、いつ訪れても旬の味に出合えるというわけだ。
もちろん通年楽しめる定番スイーツにも抜かりはない。その一つが「バスクチーズケーキ」。「KUMAMOTOチーズケーキグランプリ2023」で四天王の一つに輝いた看板メニューで、しっとり優しい口溶けと、濃厚なチーズの旨みが後を引く。同じく「KUMAMOTOプリングランプリ」で四天王の一つに選ばれたプリンも、ぜひ食べてほしい自信作。
新町には住宅も多いことから、「家族の記念日にも寄り添えるように」とホールケーキも充実している。王道の生クリームケーキからフルーツたっぷりのタルト、ショコラデコレーション、シフォンケーキに加え、写真やイラストなどをプリントできるホールケーキもあり、人気を博しているそう。
さらにもう一つ、お茶請けや手土産、ギフトに重宝する焼き菓子のクオリティの高さにも触れておきたい。20種類ほどそろう焼き菓子は、バラ売り、ギフトボックスの詰め合わせの両方に対応。中でもおすすめは、表面はサクッと、中はふわふわ食感に焼き上げた「フィナンシェ」。ココナッツ入りのクッキー「ディアマン・ココ」と、ココア風味のクッキー「メヌエット」も、ふわっとした口当たりと豊かな風味が評判だ。普段使いから記念日、ギフトまで、幅広いシーンで頼りになるパティスリーが近所にあるのは、なんともありがたい。
パティスリークオーレ 新町店
所在地/熊本市中央区新町2-7-1マリアマンション1階
徒歩11分(約880m)
※掲載の航空写真は現地付近の空撮(2021年11月撮影)にCG処理を施したもので、実際とは異なります。また、光柱の高さは建物の高さを表したものではありません。
※掲載の外観完成予想CGは、設計段階の図面を基に描き起こしたもので、 実際とは異なる場合があります。また、植栽は竣工時ではなく生育後を想定し描いております。
※徒歩分数については80mを1分として算出(端数切り上げ)したものです。
※掲載の周辺施設写真は2022年4月に撮影したものです。
※掲載情報は、2023年2月現在のものです。
※1:熊本城旧城域内において、これまで分譲マンションはありません。(住宅流通新報社調べ 2023年2月現在)